第115回 看護師国家試験 午後 問113 解説
📝 問題
次の文を読み112〜114の問いに答えよ。 Aさん(26歳、女性)は高校生のころからリストカットを繰り返し、ボーダーラインパーソナリティ症〈境界性パーソナリティ障害〉の診断を受けている。最近仕事が忙しくなったパートナーに「今すぐ返事が欲しい。私を見捨てるのか」とメールを送り続け、帰宅したパートナーが、手首から血を流しているAさんを見つけた。パートナーに付き添われて総合病院の救急外来を受診したAさんは、意識清明で神経損傷はなく、手首の処置をした看護師に「消えてしまいたい。生きている意味がない」と話した。 Aさんは興奮が続いたため、精神科医の診察を受け、入院となった。入院後は担当のB看護師に何度も声をかけていた。入院3日の深夜、B看護師に「パートナーが電話に出ないので、私の代わりに電話してほしい」と依頼があった。B看護師がすぐに対応できないことを伝えると「Bさんを私の担当から外してほしい」と複数の看護師に訴えた。B看護師は「私が忙しかったから、Aさんを怒らせてしまった」と話している。 看護チームの対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
✅ 正解
4・5
💡 解説
✅ カンファレンスでスタッフの感情を共有することと、日中に時間を決めて話を聞くと本人に伝えることが適切である。
Aさんの行動は、特定の看護師を「よい/悪い」に分けてチームに対立を持ち込むスプリッティング(分裂)として理解できる。 意図的な操作というより対人関係の不安定さから生じるパターンで、放置するとチームの足並みが乱れ、B看護師のように自責感情を抱えたスタッフが孤立する。
有効な対応は2つある。 ひとつはカンファレンスでスタッフの感情を共有し、チームの対応を統一すること。 もうひとつは、いつ・どれだけ話を聞けるかという枠組みを決めて本人に伝えることで、これは拒絶ではなく、予測できる関わりを保証して不安を減らす限界設定である。
- 1
B看護師の担当患者を減らす。不正解
問題はB看護師の業務量ではなく、患者とスタッフの関係パターンおよびチーム対応の一貫性である。担当患者を減らしても、同じことが別の看護師との間で繰り返される。
- 2
Aさんの希望に応じて担当者を変更する。不正解
「担当を外して」という要求にそのまま応じると、要求すれば関係を変えられるという形で不安定な対人パターンが強化される。加えて、B看護師には「自分が悪かった」という体験だけが残ってしまう。
- 3
パートナーに、Aさんに電話をするよう連絡する。不正解
パートナーへの連絡は、患者の要求を看護師が代行するもので治療的な境界を越えている。本人の同意なく第三者に連絡することは、守秘の観点からも問題がある。
- 4
カンファレンスでチーム内の看護師の感情を共有する。正解
スタッフが抱いた戸惑い・怒り・自責といった感情をカンファレンスで共有することで、個人の問題として抱え込ませず、チームとして一貫した対応を決められる。スプリッティングへの基本的な対処である。
- 5
日中に時間を決めて話を聞くことを、Aさんに伝える。正解
深夜に無制限に応じるのではなく、日中に時間を決めて話を聞くと伝えることは、予測可能な枠組み(限界設定)の提示である。見捨てないという保証と、守れる約束の範囲を同時に示すことができる。
📚 国試でよく狙われるところ
パーソナリティ症のある患者のケアでは、個々の看護師の力量よりもチームの一貫性が結果を左右する。
- スプリッティング=よい対象と悪い対象を統合できず、周囲を味方と敵に分けること。スタッフ間の対立として表面化しやすい
- 逆転移=患者との関わりで医療者側に生じる感情。否定せずに言語化して共有することが、燃え尽きと不適切な対応を防ぐ
- 限界設定〈リミットセッティング〉=守れる約束だけを、理由とともに、全員が同じ内容で伝える。守れない約束をしないことが最も重要である
- 面接の時間・頻度・約束事は看護計画に明記し、記録で全員が確認できるようにする
| 領域 | 現れ方 |
|---|---|
| 対人関係 | 見捨てられ不安、理想化とこき下ろしの間で激しく揺れる |
| 感情 | 数時間単位で変動する強い不快気分、易怒性、慢性的な空虚感 |
| 行動 | 自傷、過量服薬、浪費、過食などの衝動性 |
| 自己像 | 自己同一性の不安定さ |
| ストレス関連 | 一過性の妄想様観念や解離症状 |
参考: DSM-5-TR(境界性パーソナリティ症の診断基準)/日本精神科看護協会 精神科看護の実践指針
出典:「第115回看護師国家試験の問題および正答について」(厚生労働省)を加工して作成 → 出典について